悪意を感じない力
「追憶のかけら」(127/122)
貫井徳郎、
長編、文庫653ページ。
巧みな仕掛けで、
読書の、犯人探しという試みを、悉く翻弄する。
ページの残りから見て、
ミスリードだと分かっていながらも、
作者の罠にはまってしまう。
二つの物語が同時進行する。
全く関係ない二つの糸なのに、
読者が、頭の中で勝手に結びつけてしまう。
読む人の心まで操る貫井の筆力、秀逸。
そして、最後のページの清らかさ。
この物語でとうとうと語られた悪意の巨大な塊を、
見事に打ち崩す、涙なくしては読めない「告白」に、
心、揺さぶられ、読書の悦びを噛締める。
世の中、悪意で溢れてます。残念です。
でも、善があれば悪がある。
善意は、時として悪意に豹変する。
その不安定な状態が、社会であり、気持ちであり、人であり。
でも、この主人公、松嶋は、悪意に疎い。
そして、善意にも鈍感である。
でも、素晴らしい。
そう、人の気持ちを分かることが、果たして良いことなのか?
気がつかないことが「力」であっても良いのでは。
周囲に流されず、力強く、しっかりと。
※はてな年間100冊読書クラブ(2006-2007.133/122)(2005-2006.128/108)
※「もう一つの趣味は「ランニング」ですから」
- 作者: 貫井徳郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/07/10
- メディア: 文庫
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